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青森地方裁判所 昭和32年(わ)231号 判決

被告人 菅原[子子]夫

大二・四・一六生 無職

主文

被告人を懲役四月に処する。

但し一年間右刑の執行を猶予する。

被告人から金五〇、〇〇〇円を追徴する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は昭和三一年一〇月一日頃から同三二年七月二九日頃まで株式会社弘前相互銀行米町支店長として勤務し同支店の銀行業の一切を総括する業務に従事していたものであるが、昭和三二年七月初旬頃青森市大字新町一六番地株式会社大堀内商店の地下食堂において、真壁シンから船橋勝穂が同支店で手形割引を受けるに際し世話になつたことに対する謝礼の趣旨で提供するものである情を知り乍ら、現金五〇、〇〇〇円を受け取り、以てその職務に関し賄賂を収受したものである。

(証拠の標目)(略)

(法律の適用)

法律に照らすと被告人の判示所為は経済関係罰則の整備に関する法律二条前段に該当するので、所定刑期範囲内で被告人を懲役四月に処する。なお諸般の情状に鑑み刑法二五条を適用し一年間右刑の執行を猶予する。収賄金五〇、〇〇〇円は当時費消されて没収することができないから経済関係罰則の整備に関する法律四条により主文掲記の通りその価額を追徴することとし、訴訟費用は刑訴法一八一条一項により全部被告人の負担とする。

(被告人及び弁護人の主張に対する判断)

被告人及び弁護人は相互銀行の役職員は経済関係罰則の整備に関する法律(以下単に整備法という)第二条の適用を受けないものであるから刑訴法三三九条一項二号により決定で公訴を棄却すべきであると主張するので判断する。整備法は戦時中の立法(昭和一九年二月一〇日法律第四号)で幾度かの改正を経て今日に至つたものであるが、同法二条は経済統制業務であれ独占事業であれとにかく、公務員の職務に似て公的性質をもつ業務ないし事業を営む特定の会社又は組合の役職員につき涜職の防止を目的とするものであることは一貫している。しかして同条に所謂別表乙号二四の金融緊急措置令(昭和二一年二月一七日勅令第八三号以下単に措置令という)に規定する金融機関(措置令八条)の中には「銀行」「無尽会社」は表示してあるけれども相互銀行は明記されていない。即ち措置令が立法された当時の同令八条に規定する「銀行」「無尽会社」は銀行法に基ずく普通銀行、改正前の無尽業法に基ずく無尽会社を指すことは明らかである。しかるに相互銀行は無尽会社制度を母体として発展したもので、庶民金融機関の育成、強化のため昭和二六年に制定された相互銀行法(昭和二六年六月五日法律第一九九号)に基ずき創設されたものであつて、地方的な国民大衆への金融とその貯蓄機関たる性格を有して、国家の経済政策の一翼を担当し、性質上その業務は一種の公務に準ずるものである。内容的にみると相互銀行法第二条一項各号に列挙してあるごとく普通銀行と改正前の無尽会社の業務を併せ持ち――無尽会社は物品給付無尽を業務とし金融機関たるの実質を喪失した今日――性格において普通銀行と異なる点もあるが、その企業形態及び経済的機能において普通銀行と同様のものである。故に他の法規において単に「銀行」とあるときは銀行法によつて設立された銀行のみを指すものではなく特別の制限のない限り相互銀行も含まれるものと解するのが相当である(例えば商法一七五条二項一〇号、中小企業信用保険法二条、その他各種の税法等の中に規定する「銀行」なる表現には相互銀行が含まれている)。同様にして措置令八条に規定する金融機関の「銀行」には相互銀行も含まれるものと解すべきである。

従つて相互銀行は資金融通の面において整備法二条の経済の統制を目的とする法令により統制に関する業務を為す会社に準ずるものに該当し、被告人はその職員として資金貸付業務に関し判示の賄賂を収受したものである。かく解することは前記無尽会社の変革と相互銀行法成立の経過に徴しいわゆる罪刑法定主義の原則に違反するものではない。

よつて弁護人及び被告人の右主張は採用しない。

(裁判官 斎藤勝雄 鍬田日出夫 谷口茂高)

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